2009/05/19

2008 December 25 Thursday.


Merry Christmas Everybody!!!


Meanwhile,.....


第200話  米国、ゼロ金利政策と量的緩和の採用(薄まるドル) ☆☆☆

前回の第199話にて、「海図のない航海、ゼロ金利に向かう?FRB」として米国がゼロ金利政策の採用に向かう可能性が高いこと、また既にリーマン・ブラザーズの破綻後の金融の混乱への対応策として、金利から通貨の供給量という政策の変更すなわち「量的緩和策」に実質的に乗り出していると した。

「量的緩和策」とは簡単に表現するならば“紙幣を増刷し、ばら撒く”政策であり、為替市場の観点からすれば、究極の通貨安政策とした。すでに日本が2001年に採用した政策だが、日本の場合には、量的緩和策採用から約1年後の2002年2月に1ドル=135円台を記録したのが円の最安値だった。

しかし、そこをピークに2004年3月の110円割れまでむしろ円高が進んだ。

第199話では「なぜ、そこで止まったのか。それは日本が経常黒字国であり、対外債権国であるからではないか。

片や米国は、経常赤字国であり世界最大の対外債務国である。

ドルが基軸通貨であるということが、大きなメリットであり、それが歯止めになる可能性はあるが、仮に大赤字国が本格的な量的緩和策に乗り出すならば、日本円のような水準で果たして止まるのか否か」とした。

年末が迫った今月の16日。米国では2日にわたりFOMC(連邦公開市場委員会)が開かれ、利下げが行われた。

市場の大勢は0.5%の引き下げを予想したが実際には0.75%の大幅な引き下げとなった。

そればかりか、今回の引き下げは1%と過去最低に並んでいた金利水準を0%から0.2
5%にするという金利水準をゾーンで設定するという異例の政策決定となった。

中央銀行であるFRBが操作しているのは、銀行間の貸し借りの金利を意味するFFレート(フェデラル・ファンド・レート)だが、その目標金利にゼロ金利を含めたという点に今回の特徴がある。

すなわち米国の政策金利(中央銀行が操作する金利)は、名実共にゼロ%を正式に採用したことにより、下げ余地はなくなったことになる。

さらに今回のFOMCではその声明文にて「長期国債の買い入れの検討」をうたい、量的緩和策の導入を正式に決めたのも大きな特徴だった。

FRBはこれから(下げ余地のない)金利ではなく、(世の中に出回る)資金量で金融市場ひいては経済に影響を与えるという政策を採ることとなった。

これで11月の第199話で触れた環境が生まれることとなった。

果たしてこの決定が発表された直後から為替市場ではドルが売られた。

市場では米国の利下げを織り込む形で12月に入るとともに主要通貨に対しドル売りの流れが起きていたが、予想を上回る緩和策の発表に下げ幅が大きくなった。

特にドル円相場は急落状態(円急騰)となり1ドル87円13銭と1995年7月以来の円高水準を記録するに至った。

「量的緩和策」を別の方法で説明するならば、それは100%のジュースに水を足すようなイメージを浮かべていただければいいだろう。

当然ジュースは薄まる。90%、80%というふうに。このジュースの濃度の薄まりは通貨価値の薄まりを意味することになる。

極端に薄まるとこれは「マネー・インフレ」ということに至る。

「通貨の堕落」という言葉があるのだが、金融市場の、そして経済のカネ回りを良くするために金利の引き下げでは足りず、更に(印刷した)通貨を“ばら撒く”という政策は両刃の剣でもあるわけだ。

この“通貨を薄める政策”の導入に金市場は敏感に反応することになった。
政策の発表直後にはドル建て価格は今年の10月8日以来となる880ドル台の高値まで買い進まれたのである。

ドル建て金価格は、ドル相場との逆相関性を維持しており、2009年入り後もこの関係が続きそうだ。

足元でFRBが乗り出した政策は為替要因としてはドル安政策であり、机の上(理論上)ではドルの暴落をも思わせるものといえる。

ただし現実の相場はそれほど簡単なものではないだろう。

対抗馬たるユーロの存在も確かなものとは言えないためだ。

ユーロ圏経済も今回の一連の金融危機のなかで大きなダメージを受けており、更なる利下げ(金融緩和)が必要とされているのである。

年始早々にもECB(欧州中銀)は利下げに向かうと見られており、現在2%となっているユーロ圏の金利と米国の金利差は縮小が予想されている。

これはドルのサポート要因といえる。

ユーロ圏よりもさらに激しい景気の収縮に見舞われていると見られる英国の利下げも大きくなると見られており、年始早々、今度はヨーロッパでの利下げの度合いが注目点になっている。

その結果がまたドル建て金価格の方向性を左右することになる。

ちなみに、かかる環境の下で、ドル円相場の円高の波は終わっているとは思えず、年末年始を挟んでの更なる円高方向への動きも想定できる環境ではないかと思われる。

年始は1月2週のヨーロッパの金融政策の動きを踏まえながら、価格動向に触れたいと思います。

皆様、良い年をお迎えください。(12月25日記)

金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎

※本レポートは執筆者の個人的な見解を述べたものであり、
 実際の投資にあたってはお客様ご自身にてリスクをご判断ください。